戦略人事とは?人事戦略との違いや導入手順、メリットを解説

目次
近年、多くの企業で「戦略人事」という考え方が注目されています。企業の競争力強化に繋がる重要な考え方の1つですが、人事戦略との違いや導入手順について疑問に思った方は多いのではないでしょうか。
当記事では、戦略人事の基本概念や人事戦略との違いを解説するとともに、導入手順やメリットについて詳しく紹介します。
人事部門の役割を強化し、経営に貢献する人事戦略を実現したい企業担当者の方は、ぜひ参考にご覧ください。
戦略人事とは

戦略人事とは、企業の経営戦略に基づいて人事施策を展開し、組織全体のパフォーマンスを向上させるためのアプローチ・マネジメントのことです。
経済学者のデイブ・ウルリッチが提唱した考え方で、「戦略的人的資源管理(Strategic Human Resources Management)」の頭文字を取ってSHRMと呼ぶこともあります。
戦略人事が注目される背景
近年、企業環境は急速に変化しており、競争が激化しています。このような状況下で企業が持続的に成長できるよう、従来の人事管理から一歩進んだ「戦略人事」が求められるようになりました。
デジタル化やグローバル化が進む中で企業は多様な人材を活用し、柔軟な組織運営を実現する必要性が増しており、これにより戦略人事は、企業の競争力を高めるための重要な要素として位置づけられています。
戦略人事と人事の違い
戦略人事と従来の人事の違いは、主にそのアプローチと目的にあります。従来の人事は、主に業務の運営や管理に焦点を当てており、採用や給与管理、労務管理などの業務を中心に行われてきました。
このような人事は、日常的な業務を効率的に正確に
遂行することが求められ、戦略的な視点はあまり重視されていません。一方、戦略人事は企業の経営戦略と密接に関連しており、組織全体の目標達成に向けた人材の最適化を目指します。
戦略人事と人事戦略の違い
前述したとおり、戦略人事は企業全体の経営戦略に基づき、人材を戦略的に活用することを目的としたものです。つまり、経営層との連携を強化し、組織全体のパフォーマンス向上に繋がることを重視します。
その一方で人事戦略は、企業の人事部門が策定する具体的な施策や計画を指します。これは採用、育成、評価、報酬など日常的な人事業務に関する方針や手続きを含みます。
人事戦略は戦略人事の一部として位置づけられることもありますが、より短期的な視点での実行可能な計画に焦点を当てているのが特徴です。
戦略人事の機能と役割

ここからは、戦略人事の機能と役割について紹介します。
HRBP
HRBP(Human Resource Business Partner)は、戦略人事の中核を担う重要な役割です。企業のビジネス戦略に基づいて人事施策を立案・実行し、経営陣と密接に連携することで、組織全体のパフォーマンス向上を目指します。
具体的にはHRBPは各部門のニーズを理解し、適切な人材の配置や育成、評価制度の設計などを行います。
HRBPはビジネスの成長を支えるための戦略的な役割なので、経営陣は人事施策がビジネス目標にどのように寄与するかを明確に把握でき、よりスピード感のある意思決定が可能になるでしょう。
OD・TD
OD(組織開発)は、組織全体の構造や文化を見直し、効果的なチームワークやコミュニケーションを促進することを目的としています。これにより、組織のパフォーマンスを向上させ、変化に柔軟に対応できる体制を整えることが可能です。
一方、TD(人材開発)は個々の従業員のスキルや能力を向上させることに焦点を当てています。従業員が持つ潜在能力を引き出し、キャリアの成長を支援することで、企業全体の生産性を高める役割を果たします。
OPs
OPs(オペレーショナル・ピープルズ)は、日常的な人事業務の効率化や最適化を図ることを目的としており採用、育成、評価、報酬などのプロセスを管理します。ただし、OPsの役割は単に業務を遂行するだけではありません。
データ分析を活用して人材の適正を見極めたり、従業員のエンゲージメントを高める施策を導入し、組織全体の生産性向上に繋げる役割を担います。
CoE
CoE(Center of Excellence)は、特定の専門分野において高い知識とスキルを持つチームや部門のことです。人事部門が主導となり、社内でバラバラになっていた優秀な人材やノウハウ、設備を1か所に集約することで、事業戦略や組織における課題を効率的に解決することが可能になります。
CoEの主な目的は、部門等の垣根を超えて、他の部門に対して支援を行うことです。CoEが上手く機能することで各部門が直面する課題に対して、専門的な知見をもとにした解決策を提案し、実行することが可能になるでしょう。
戦略人事のメリット

ここからは、戦略人事のメリットについてまとめて紹介します。
企業の競争力を強化できる
戦略人事を導入することで企業は市場の変化に迅速に対応できるようになり、競争力を強化することが可能になります。
また、正しい戦略人事によって人材を適切なポジションに配置できれば、業務の生産性が向上し、結果として企業全体のパフォーマンス向上が可能です。
スピード感のある判断が可能
戦略人事の導入により、企業は迅速な意思決定を行うことが可能になるでしょう。従来の人事部門は、主に業務の運営や管理に焦点を当てていましたが、戦略人事では経営戦略と連携し、リアルタイムでのデータ分析や市場の変化に対応することが求められます。
把握した課題や人材要件をまとめ上げ、経営陣への提言もスムーズに行えるようになるため、他の企業よりも早い段階で施策を打つことができるでしょう。
従業員の経営ビジョンへの理解が深まる
戦略人事は経営陣と従業員の間のコミュニケーションを円滑にし、ビジョンや目標を明確に伝える役割を果たします。
各従業員が自分にどのような役割が求められているのか把握できるので、社内全体のエンゲージメント向上も期待できるでしょう。また、企業が教育や研修プログラムを提供することで、成長意欲の促進も期待できます。
戦略人事のデメリット

戦略人事の導入には時間とリソースが必要であり、中小企業にとっては大きな負担になってしまうでしょう。特に新しいシステムやプロセスを導入する際には、既存の業務との調整が求められ、これが業務の効率を一時的に低下させる可能性があります。
また、戦略人事は経営層との密接な連携が不可欠ですが、経営層の理解や協力が得られない場合、戦略がうまく機能しなくなる可能性も否定できません。
戦略人事の実現方法

ここからは、戦略人事の実現方法について紹介します。
経営戦略と経営ビジョンの把握
まずは、企業の経営戦略と経営ビジョンをしっかりと把握しましょう。経営戦略とは、企業が市場で競争優位を確立するための具体的な計画や方針を指し、経営ビジョンは企業が目指す理想的な未来像を示します。
この2つを理解することは、戦略人事が企業の成長にどのように関与できるかを考える上で必要不可欠です。
人事ビジョンの策定
経営戦略と経営ビジョンを把握したら、人事ビジョンを策定しましょう。人事ビジョンとは、企業が人事戦略において目指す姿や人材に求めるスキル、価値観を明確にするものであり、企業の経営戦略と密接に関連しています。
経営戦略と経営ビジョンから逆算し、人事ビジョンを策定していくことで、より効果的な戦略人事を実現できるでしょう。
中長期の経営計画を把握
経営計画は企業の方向性を示すものであり、戦略人事がその実現を支援する役割を果たします。中長期の経営計画の内容を理解することで、企業が目指すビジョンや目標に対して、具体的に必要なリソースなど、人事戦略に必要な情報を把握することができるでしょう。
中長期の経営計画には、売上目標や市場シェアの拡大、製品開発の方向性など様々な要素が含まれます。これらの情報を基に、人事部門は必要な人材のスキルセットや数を見極めることで、適切な採用や育成の戦略を立てることが可能になります。
中長期的な人事計画を策定
これまでの経営戦略や策定した人事ビジョン、中長期経営計画を考慮して中長期的な人事計画を策定しましょう。
人事計画とは、企業が適切な人材を確保・配置・育成し、組織の目標を達成するための計画のことです。
中長期的な人事計画を策定する際には、まず現状の人材のスキルや能力を把握し、将来的に必要となるスキルセットとのギャップを分析しましょう。このギャップ分析を通じて、どのような人材を採用し、どのように育成していくかを具体的に考えることができます。
採用計画と人材育成計画の策定
最後に採用計画と人材育成計画を策定しましょう。採用計画は、市場の動向や競合他社の状況を考慮しながら、柔軟に対応できるよう計画を構築することが求められます。
人材育成計画については、採用した人材が企業の成長に貢献できるようにするための重要な要素です。企業の目指す方向性に沿ったスキルや知識を身につけさせるための研修プログラムやキャリアパスを設計することが必要になるでしょう。
戦略人事を成功させるために必要なこと

ここからは、戦略人事を成功させるために必要なことについて紹介します。
経営戦略の理解
戦略人事は、経営戦略と連動させていくことが重要であるため、経営戦略への深い理解が必要不可欠です。
経営戦略を理解することで、企業が求める人材像やスキルセットを明確にし、戦略に基づいた人事施策を展開することができます。
例えば、新規事業の立ち上げを目指す企業であれば、イノベーションを促進するための人材を優先的に採用し、育成する必要があるでしょう。また、経営戦略の変化に応じて戦略を柔軟に見直すことも重要です。
現場からの信頼を得る
戦略人事を成功させるためには、現場からの信頼を得ることも大切です。人事部門が経営戦略に基づいた施策を実施する際、現場の従業員との信頼関係が強固であることが、施策の効果を最大限に引き出す要因となります。
戦略人事は現場の従業員に直接関係することなので、不満の防止やモチベーション管理を考慮することも重要です。
外部環境を把握する
戦略人事を成功させるためには、外部環境の把握が欠かせません。企業は常に変化する市場や競合他社、技術革新、社会的なトレンドの影響を受けています。
これらの外部要因を理解することで企業は適切な人材戦略を策定し、競争力を維持・向上させることが可能になるでしょう。
特に競合他社の人事施策や市場のニーズを分析すれば、自社の強みや弱みを明確にし、戦略を見直すきっかけとなります。
取り組みと整合性を取る
戦略人事を成功させたいなら、企業の全体的な取り組みと人事施策との整合性を取りましょう。企業が掲げる経営戦略やビジョンに基づいて人事施策を設計することで、組織全体が同じ方向に向かって進むことが可能になります。
この整合性が欠けると、各部門が独自の方針で動くことになり、結果として企業全体のパフォーマンスが低下する恐れがあるでしょう。
人事における成果を設定する
戦略人事を成功させるためには、具体的な成果を設定しておきましょう。成果の設定は、企業の人事部門が経営戦略にどのように貢献できるかを明確にするための指針となります。
成果は、企業の実情に基づいて設定することが望ましいです。例えば、従業員のエンゲージメントスコアや離職率、採用数など、具体的な数値で測定可能な指標を設定することで進捗を把握しやすくなるでしょう。
戦略人事の説明を行う
戦略人事の概念はまだ新しいものであり、すべての従業員が理解しているとは限りません。戦略人事に関する理解がないと導入後の不満が出たり、かえってエンゲージメントが下がってしまう可能性があります。
現場からの理解を得るためにも、事前に戦略人事に関する説明を実施しておくとよいでしょう。
アウトソーシングを活用する
戦略人事を成功させるためには、アウトソーシングの活用が重要な要素となります。企業が人事業務を外部に委託することで、専門的な知識や技術を持つプロの力を借りることができ、効率的な業務運営が可能になります。
特に採用活動や人材育成、給与計算などの業務は専門性が高く、時間とリソースを要するため、アウトソーシングによって負担を軽減することができるでしょう。
まとめ
戦略人事は、企業の競争力を高めるための重要なアプローチであり、単なる人事業務の枠を超えた戦略的な役割を果たします。これまでの人事との違いを理解し、戦略人事を実現することで、企業はより迅速かつ効果的な意思決定を行うことが可能になるでしょう。
当記事では、戦略人事の概要や人事戦略との違い、実現方法について解説しました。今後、戦略人事を実現することで、企業はより強固な人材基盤を築き、競争優位性を確立することが期待できます。
人事部門が経営に貢献するための新たな道を切り開くために、戦略人事の実現を検討してみてはいかがでしょうか。

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